田中阿季羅が白金堂にまつわる様々な話をお届けします。

【日経MJ】

10年ほど前から日経MJを購読しています。月・水・金の週3日の発行で、14面前後と読みやすく、毎回、色々と参考になる記事が多いので楽しみにしています。
先日の紙面に、「なるほど!」「確かに!」と共感できる記事がありましたので、紹介したいと思います。

志村けんさんの「利他的発想」

喜劇王の志村けんさんの新型コロナウイルスによる死去に、多くの人が深い喪失感を覚えた。数々の追悼番組を見ると理由が分かる。笑いの中に他者への深い優しさが練り込まれているからだ。

名優の故・高倉健さんの名言も話題になった。「ビートたけしさんの笑いは狂気で、志村さんは哀愁がある」と。ダウンタウンの松本人志さんと比較して「俺の方が凶暴で、俺の方が優しい」。

一時代を築いたコメディアンたちはどこか共通している。面白さを提供する人々は必ずしも社交的というわけではなく、シャイで内省的だ。自分の存在理由をとことん考えるから、逆に利他的になれる。この結果口当たりのいい優しさではないので、深く、長く愛されるアイデアが生まれる。

経済の分野では、やはり米アップルを作ったスティーブ・ジョブズ氏だろう。電機メーカーはやたらとリモコンのボタンを増やしたがるが、iPhoneは1つにした。実に使いやすく、美しいスマートフォンは世界を変えた。これが利他的な優しさマーケティングではないか。

ジョブズ氏の伝記を読むとやはり狂気をはらんだ性格のようだ。その強烈な「自分探し」がアップルというコアファンを引き寄せるブランドを作り上げた。

「客のため」より「客の喜び」

かなり究極の話をしたが、新型コロナ以降、消費者はさらに慎重になるだろう。危機に見舞われ、人々は「なんとか自分は助かりたい」という利己的な思いと、「つらい人をなんとか助けたい」という利他的な気持ちが日々交錯している。

だからこそ、優しさと気遣いという言葉が重みを持つ。言い方を変えると、「顧客のため」ではなく、「顧客の立場に立つ」という姿勢だ。

顧客のためというのは多くはお仕着せが多い。売り上げを優先した余計な機能や無駄なパッケージなど売り上げを優先した付加価値だ。一方で、顧客の立場に立つとは、顧客のニーズから逆算する経営姿勢に他ならない。近年の米ウーバーテクノロジーズや米エアビーアンドビーなどはその代表だろう。

コインパーキングやカーシェアリングのパーク24の西川光一社長に「カーシェアの会員、やめる手続きが簡単ですぐやめられますね」と質問したことがある。すると「自分自身がやめにくいようなサービスは嫌いだから」と答えてくれた。当たり前だがビジネスでも自分が嫌なことを他人にしてはいけないのだ。

大量生産・大量販売の20世紀型モデルの転換が急務と企業は口をそろえながらも、なかなか量より質の21世紀型モデルへのシフトは進まなかった。こんなウイルスは本当に勘弁してほしいが、せめて何が必要で、何が要らないのか、価値ある社会とは何かを考えるきっかけにしたいところだ。

志村さんはこんなことを語っている。「人を笑わせるのではなく、笑われるのが好きなんだ」。自分をだれよりも下に置き、顧客の喜びを優先する希代の喜劇王の言葉はまさに優しきマーケティングの神髄だ。

出展:日経MJ(編集委員 中村直文)氏

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「JR花園駅のハナミズキ」

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